このページの要点
- 商法19条3項と会社法432条2項は、帳簿とその営業・事業に関する重要な資料を、帳簿閉鎖の時から10年間保存することを求める。契約書類は、念のため10年を目安にする。
- 代金債権は、知った時から5年、行使できる時から10年で時効にかかる(民法166条1項)。請求できる間は、根拠の書類を一組にして残す。
- 電子データは、名前と置き場所を決め、送受信したままの原本を残し、自動削除や退職でのアカウントの消滅に備える。再発行の書類には「再発行」と元の番号を書く。
- 保存のルールには、種類ごとの期間、形式、場所、破棄の記録と、争いが始まった取引は破棄しない例外を入れる。税務上の保存の要件はこのガイドでは扱わない。
結論:保存の期間は一つの条文で決まらない。会社の帳簿・重要資料の10年、債権の時効、取適法の書類保存、争いに備える立証の四つから考える
見積書、発注書、請求書、納品書は、いつまで取っておけばよいのか。メールやチャットのやり取りのままで構わないのか。この疑問に、「この期間」と一言で答える条文はありません。書類の保存には、いくつかの別々の根拠があり、それぞれが違う理由と違う期間を持っています。次の四つの軸で整理すると、迷いが小さくなります。
- 会社や商人としての帳簿・重要資料の保存義務。商法19条3項と会社法432条2項が、いずれも10年と定めている。
- 債権の消滅時効。代金や報酬を請求する権利が残っている間は、その根拠になる書類を持っておく必要がある(民法166条1項)。
- 取引の類型ごとの特別な保存義務。取適法7条は、対象となる取引で委託事業者に書類等の作成と保存を義務付けている。
- 争いが起きたときの立証。書類は、いつ、誰が、何を合意したかを示す材料になる(民事訴訟法228条4項、電子署名法3条)。
税務上の保存の要件(国税関係の帳簿や書類の保存期間、電子データの保存の方式)は、税の制度として別に定められています。このガイドでは扱いません。ここで説明するのは、契約上の権利と義務、取引の記録としての保存です。なお、書類を何年保存するかを決める前に、何を、誰が、どこに、どの形式で保存するかという運用の決め方が大切です。このページでは、条文の整理に加えて、保存のルールの作り方、電子データの保管、紛失したときの再発行、破棄の手順までを扱います。保存した書類を、請求や催告に使う場面は支払期日と支払の遅れのページ、書類が残っていないときの材料の集め方はトラブルとよくある質問のページに分けて書いています。
商法・会社法の10年:何が「重要な資料」に当たるか
商法19条3項は、商人は、帳簿閉鎖の時から10年間、その商業帳簿およびその営業に関する重要な資料を保存しなければならない、と定めています。会社法432条2項も、株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を保存しなければならない、と定めています。
商法19条3項と会社法432条2項の整理
| 項目 | 商法19条3項 | 会社法432条2項 |
|---|---|---|
| 対象者 | 商人(自己の名をもって商行為をすることを業とする者。個人事業者も含みうる) | 株式会社 |
| 対象の書類 | 商業帳簿(会計帳簿および貸借対照表)およびその営業に関する重要な資料 | 会計帳簿およびその事業に関する重要な資料 |
| 保存期間 | 帳簿閉鎖の時から10年間 | 会計帳簿の閉鎖の時から10年間 |
| 起算点 | 帳簿を閉鎖した時(取引の日ではない) | 会計帳簿を閉鎖した時 |
| 注意点 | 小商人(財産の価額が法務省令で定める金額を超えない商人)には、商業帳簿の章は適用されない(商法7条) | 計算書類とその附属明細書は、作成した時から10年間(会社法435条4項)。これは別の条文 |
この表で押さえておきたいのは、二つの点です。第一に、10年の起算点は帳簿を閉鎖した時であり、書類を作った日や、取引をした日ではありません。決算期ごとに帳簿を閉鎖するなら、実質的には、その期の取引の書類は、閉鎖の時から10年間が保存の目安になります。第二に、「重要な資料」に何が含まれるかは、条文に列挙されていません。取引の内容を示す契約書、見積書、発注書、請求書、納品書、検収書が、帳簿の裏付けとなる重要な資料に当たるかは、書類の性質と取引の重要性によって判断されることになります。念のため、これらの書類を帳簿と同じ期間保存するという運用も考えられます。
個人で事業をしている方が商人に当たるかは、事業の内容によります(商法4条1項)。商人でも、小商人に当たる場合は商法の帳簿保存の規定が適用されません(商法7条)。そのため、個人事業者の場合は、適用があるかどうかを自分の事業で確かめたうえで、適用がなくても、次に説明する時効の観点から、書類を一定期間残しておく運用が実際的です。
債権の消滅時効と保存の目安:請求できる間は、根拠の書類を持っておく
代金や報酬を請求する権利(債権)は、時効によって消滅します。民法166条1項は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、債権が時効によって消滅すると定めています。通常の取引では、支払期日が到来すれば、その時から請求できることを知っているため、5年が基本の目安になります。
書類の種類と、保存を考える際の目安(一般的な整理)
| 書類 | 主な役割 | 保存の理由 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 契約書・基本契約書 | 取引の条件を定める | 契約が続く間と、終了後も、債権・損害賠償・契約不適合の責任が残る間は必要 | 契約の終了から、時効と責任の期間が過ぎるまで。念のためには帳簿と同じ10年 |
| 見積書・発注書・請書 | 契約の成立と内容を示す | 金額、数量、条件の争いに備える | 取引の完了から、時効が完成するまで。書類の食い違いが争われる可能性を考え、請求書と同じ扱いにする |
| 納品書・受領書・検収書 | 引渡しと検収の事実を示す | 契約不適合の通知期間(民法566条、637条)、支払請求の根拠 | 契約不適合の期間が過ぎ、代金債権の時効が完成するまで |
| 請求書・領収書 | 請求と弁済の事実を示す | 代金の請求、支払済みの証明 | 債権の時効の期間。二重払いの争いに備え、領収書は特に残す |
| メール・チャットの記録 | 合意の経緯、変更の承諾を示す | 書類に書かれていない合意の証拠 | 取引の書類と同じ期間。削除の設定が自動で働かないように注意する |
表の目安は、条文が書類ごとに期間を定めているわけではなく、時効や責任の期間から逆算した考え方です。令和2年(2020年)4月1日より前に生じた債権には改正前の時効の規定が適用される場合がありますが、現在の取引を前提にする限り、民法166条1項の整理を出発点にして差し支えありません。時効の完成が猶予されたり、更新されたりする場合(催告、協議の合意、承認など)の仕組みは、支払期日のページで整理しています。
保存するときに実際に役立つのは、書類を単独で残すことよりも、一つの取引に関する書類を、一組にして残すことです。見積書、発注書、請書、納品書、検収書、請求書、入金の記録を、同じ番号や同じ取引の名前のフォルダにまとめておけば、争いのときに、取引の始まりから終わりまでを順にたどれます。とくに見積書は、改訂を重ねて複数の版ができることがあります。最終版だけでなく、途中の版と、どの版を承諾したのかが分かる記録(承諾のメール、発注書に書かれた見積書番号)を一緒に残しておくと、金額や条件の食い違いが出たときに説明できます(見積書の版の管理は見積書の書き方のページで扱っています)。検収や請求との突合に使う書類の組み合わせは、納品書・受領書・検収書のページで整理しています。
反対に、取引の書類の中には、個人情報や秘密情報を含むものがあります。保存の期間を長くすることは、情報が漏れる機会を長くすることでもあります。保存の場所へのアクセスを担当者に限り、期間が過ぎたら確実に破棄する、というルールを書類の保存ルールの中に入れておくと、バランスが取れます。
取適法の書類の作成と保存:対象となる取引の義務
取適法7条は、委託事業者が中小受託事業者に対して製造委託等をした場合に、給付の内容、給付の受領(役務提供委託などでは役務の提供を受けたこと)、製造委託等代金の支払その他の事項について記載し、または記録した書類または電磁的記録を作成し、これを保存しなければならないと定めています。作成と保存の具体的な方法は、公正取引委員会規則で定められています。
- この義務を負うのは、委託事業者です(一定の資本金の区分などを満たす発注者)。受注側の中小受託事業者に、この条文による保存義務があるわけではありません。
- 対象となる取引かどうかの判定は、委託の類型(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託)と、資本金の区分で決まります(取適法2条)。この判定の詳細は、別のガイドで扱います。
- 納品書、受領書、検収書、請求書、支払の記録は、この書類の材料になりえます。
- 保存期間などの詳細は、条文だけでは分からないため、公正取引委員会規則と所管官庁の資料で確認が必要です。
発注側の会社が対象になる場合、見積書から支払までの一連の記録が、そのまま保存の対象になります。受注側にとっても、発注側がどのような記録を保存するかを知っておくと、後で金額や受領の事実を確認するときに、記録の請求がしやすくなります。
電子データの保管:メール、PDF、チャット、クラウドをどう残すか
現在の取引では、見積書も請求書も、PDFで送られ、メールやチャットで承諾が交わされることが多くなっています。紙の書類と異なり、電子データは、端末の入れ替え、アカウントの削除、サービスの終了、自動削除の設定、担当者の退職などで、気づかないうちに失われることがあります。
電子データの保管の考え方(一般的な整理)
名前と置き場所を決める
探せる状態にしておく
- ファイル名に、日付・取引先・書類の種類・番号を入れる(例:日付_取引先_書類の種類_番号)。
- 保存先のフォルダを取引先ごと、年度ごとに決める。
- 個人のメールやチャットだけに置かず、共有の保存先にも写す。
改ざんを防ぐ
後から書き換えられていないことを示せる
- 送受信したままのファイルを、別名で保存せずに残す。
- 署名や電子署名が付いたファイルは、その状態で保存する(電子署名法3条は、本人による電子署名が行われた電磁的記録は、真正に成立したものと推定すると定める)。
- 訂正した版は上書きせず、版番号を付けて並べて保存する。
消えない仕組みにする
紛失・消失に備える
- メールやチャットの自動削除の設定を確認する。
- クラウドサービスの契約が終わったときに、データを書き出して保存する。
- 担当者が退職するときに、アカウント内の取引の記録を引き継ぐ。
電子データは、見た目が同じでも、作成日や更新日、送信の日時といった付随する情報が、争いのときに意味を持つことがあります。ファイルを開き直して保存し直すと、更新日が変わるため、元のファイルは別に保管します。
チャットでの承諾や変更のやり取りは、期間が経つと探しにくくなります。重要な合意は、チャットで済ませずに、メールや書面に転記して残す、あるいは画面を書き出して保存する運用が現実的です。また、電子データには、印刷しても、原本と同じ証拠価値を持たない場合があります。契約書のように署名や押印の効力が重要な書類は、電子ファイルのまま署名の情報を保持して保存するのが基本です。
紛失したとき、再発行するとき:控えの扱いと二重払いの防止
書類をなくしたときは、再発行を求めるか、控えを使います。請求書や領収書を再発行するときは、元の書類と区別がつくようにしておく必要があります。区別がつかないと、請求書が二重に処理されたり、領収書が二重に使われたりするおそれがあるためです。
書き方の例(一般的な例) 書類の再発行の書き方
請求書の再発行
理由元の請求書と再発行の請求書が両方届くと、相手が二重に支払う危険がある。
領収書の再発行
理由再発行の領収書と元の領収書が別々の場所で使われないようにする。
契約書の再交付
理由原本と写しが区別できないと、証拠としての価値が下がる。
弁済をする者は、弁済と引換えに受取証書の交付を請求できます(民法486条)。債権に関する証書がある場合に、全部の弁済をした人は、その証書の返還を請求できます(民法487条)。支払う側にとっては、領収書(受取証書)が支払済みであることの証明になるため、支払ったあとの領収書は、相手から確実に受け取って保管することが基本です。債権の存在を示す証書がある取引(借用証書の類)では、全部の弁済のあとに、その証書の返還も求められます。
保存のルールの作り方と、破棄の手順
保存の期間と方法を、取引の書類ごとに文章で決めておくと、担当者が変わっても運用が続き、破棄のときに迷いません。
書類の保存ルールの記載欄の例(一般的な例)
書類の種類
契約書、見積書、発注書、請書、納品書、受領書、検収書、請求書、領収書、メール・チャット
種類ごとに行を分ける。
保存期間
『取引の完了から○年』または『帳簿の閉鎖から○年』
商法・会社法の10年、時効の期間、取適法の規則を踏まえて決める。
保存の形式
紙/PDF/メールのまま/クラウド
電子署名付きの書類は、署名の情報を保持したまま保存する。
保存場所・担当者
共有フォルダの階層、紙の保管場所、責任者
担当者が退職しても分かるようにする。
破棄の方法・記録
シュレッダー、データの完全消去、破棄の日付と担当者の記録
破棄した書類の一覧を残す。
例外(保存の延長)
紛争が生じたとき、紛争が解決するまで破棄を止める
請求や争いが始まった取引の書類は、期間が過ぎていても破棄しない。
取引が終わったときの書類の扱いも、保存のルールに含めておきます。契約書に「契約の終了後、相手方から受け取った資料は、返還または破棄する」と定めている場合でも、自社の取引の記録としての書類(見積書、発注書、請求書、検収の記録など)の写しを、どの範囲で残してよいかが問題になります。返還や破棄の対象は、通常、秘密情報や相手が提供した資料であり、取引の記録そのものは、帳簿や時効の観点から残す必要があります。秘密保持の条項と保存の必要が衝突しないよう、「法令または自己の記録の保存のために必要な範囲で、写しを保管できる」といった例外を、契約に書いておく書き方が見られます。
最後の例外は、見落とされやすい点です。取引に関して争いが始まった場合や、請求を続けている場合は、保存期間が過ぎていても、書類を破棄してはいけません。破棄の担当者が、争いが起きていることを知らないまま、定期的な破棄の手順に従って消してしまうことがないよう、争いの発生を担当者に伝える流れを決めておきます。
起きがちなこと:書類の保存をめぐる場面別の整理
書類の保存で起きがちなこと
担当者が退職してデータが消えた
起きがちなこと個人のメールアカウントで取引していたため、退職とともに見積書やメールの記録が消えた。
手当て取引の記録は共有の保存先にも写す。退職時にアカウントの内容を引き継ぐ手順を決める。
チャットの自動削除
起きがちなことチャットサービスの設定で、一定期間後にメッセージが消えていた。
手当て重要な合意はメールや書面に転記する。サービスの保存期間の設定を確認する。
原本がなく、写しだけ
起きがちなこと原本をなくして写ししかなく、相手が写しの成立を認めない。
手当て原本が必要な書類は、署名や押印の済んだ原本を耐火の保管場所に置く。電子契約なら、署名の情報を含めて保存する。
時効が近づいていた
起きがちなこと古い取引の代金が未払であることに気づいたが、時効が近い。
手当て請求書や催告の記録を探す。時効の完成猶予や更新の仕組み(民法150条、151条、152条)を、支払期日のページで確認する。
定期的な破棄で争いの書類が消えた
起きがちなこと保存期間が過ぎた書類を一括で破棄したところ、争いの対象の取引の書類が含まれていた。
手当て争いが始まった取引は、期間にかかわらず破棄しない、と保存ルールに書く。
書類の保存のために確認すること
- 書類の種類ごとに、保存の期間と形式が決まっている
- 10年(商法・会社法)、時効の期間、取適法の規則を踏まえて決めている
- 電子データの保存先が、個人のアカウントだけになっていない
- メール・チャットの自動削除の設定を確認している
- 再発行の書類には、『再発行』と元の番号が書かれている
- 争いが始まった取引の書類は破棄しない、というルールがある
よくあるご質問
見積書や請求書は、何年保存すればよいですか?
書類ごとに年数を定めた一律の条文はありません。商法19条3項は、商人に対し、帳簿閉鎖の時から10年間、商業帳簿とその営業に関する重要な資料を保存することを求めています(会社法432条2項も、株式会社について同様)。契約書類がこれに当たるかは書類の性質によりますが、念のため、帳簿と同じく10年を目安にする方法があります。代金債権の時効(民法166条1項)が先に来る書類でも、争いに備えて残す運用が実際的です。税務上の保存の要件は、このガイドでは扱いません。
メールやチャットの記録だけで、契約の成立を示せますか?
契約は書面がなくても成立するため(民法522条2項)、メールやチャットで合意の内容が分かれば、契約の成立を示す材料になります。ただし、送信者・受信者・日時・内容が確認できる状態で残っていることが必要です。重要な合意は、メールに転記する、画面を書き出して保存するなど、消えにくい形で残してください。
書類を電子データだけで保存して、紙は捨ててもよいですか?
契約の成立や内容を示す目的であれば、電子データで保存する運用そのものを禁じる一般的な規定はありません。ただし、争いのときに、そのデータが改ざんされていないことを示す必要があります。署名や電子署名が付いたファイルは、その状態のまま保存します。紙の書類を電子化する場合は、元の紙の原本が重要でないかを確かめてから廃棄してください。税務上の保存の要件は、このガイドでは扱いません。
取適法の書類の保存は、受注側にも義務がありますか?
取適法7条が、書類等の作成と保存を義務付けているのは、委託事業者(発注側)です。受注側の中小受託事業者に、同条による義務はありません。ただし、受注側としても、発注書、納品の記録、請求書、入金の記録を保存しておけば、金額や受領の事実を確認するときに役立ちます。対象となる取引かどうかは、条文と所管官庁の資料で確認が必要です。
領収書をなくしてしまいました。再発行してもらえますか?
弁済をした人は、弁済と引換えに受取証書の交付を請求できます(民法486条)。なくした場合に再発行を義務付ける条文はありませんが、取引の相手に求めれば、通常は再発行に応じてもらえます。再発行の領収書には『再発行』と書き、元の領収書の番号と日付を書いてもらいます。銀行振込の記録も、支払の事実を示す材料になります。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、取引の内容ややり取りの経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の取引や事業者を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 公正取引委員会 / 中小企業庁