このページの要点
- 見積書の様式に法令上の決まりはないが、書かなかった事項は後で食い違いの種になる
- 「見積書にない費用は受注者の負担」型と「見積外の作業は別途見積・承諾」型では負担が逆転する
- 「一式」「概算」は、含まれる範囲と変わり得る条件を同じ書類の中で説明する
- 税込・税別を明記し、記載ミスは速やかに訂正して版で管理する
結論:見積書は「金額の紙」ではなく、契約の条件を先に書いた書類
見積書に何を書けば、後でもめないか。結論は、金額と数量だけでなく、金額が成り立つための前提条件、含まない作業(除外事項)、有効期限、税込・税別の別までを、見積書そのものに書いておくことです。見積書は、受け取った側が承諾すれば、その内容が契約の中身になる可能性のある書類です(見積書が申込みになるかどうかは、見積書は申込みか、有効期限を過ぎたらどうなるかのページで扱います)。契約書を別に作らない取引では、見積書が条件の大半を担います。
見積書の様式に、法令が一般的に定めた決まりはありません。宛名や日付、押印の有無、「御見積書」という題名も、法律上は必須ではありません。ただし、記載しなかった事項は、後で「そのような条件だったのか」「含まれていると思っていた」という食い違いの種になります。一般に、見積書をめぐる争いの多くは、次の三つのどれかに行き着きます。
- 含まれている作業の範囲が、受注側と発注側で違って理解されていた(範囲の食い違い)。
- 見積の前提が崩れたときに、金額が変わるのかどうかが書かれていなかった(前提条件の欠落)。
- 見積に書かれていない費用を誰が負担するのかが決まっていなかった(除外事項の欠落)。
このページでは、見積書に入れる項目の設計、前提条件と除外事項の書き方、一式・概算などの表記、税込・税別の明記、記載ミスが見つかったときの扱い、控えと版の管理を順に説明します。見積書の次に出る発注書の書き方との関係や、書類全体の役割分担は書類の全体像のページにまとめています。
見積書に入れたい項目と、書き方の注意
次の見本は、見積書に入れる項目を、紙の書類の形に並べたものです。業種によって項目の名前や重さは変わりますが、抜けやすい項目を確認する物差しとして使えます。金額は伏せています。
御見積書(記載欄の見本)
宛名・発行者
発注を検討している相手の名称、発行する側の名称と連絡先
宛名の表記違いは、請求書や契約書に引き継がれる。正式名称で書く。
見積番号・発行日
見積書を特定する番号と日付
後で改訂するときの版を区別するために必要。発注書から参照する手がかりにもなる。
件名
何についての見積かを一行で示す
複数の案件が並行しているとき、取り違えを防ぐ。
内容・数量・単価・金額
項目ごとに、内容、数量、単価、小計を並べる
「一式」でまとめる範囲は、含まれる作業を別欄で説明する。
合計金額と税込・税別の別
○円(税込)または○円(税別)と明記する
税込か税別かを書かないと、金額の食い違いのもとになる。消費者向けに価格を示すときは、消費税を含む総額を表示する(消費税法63条。免税事業者を除く)。
納期・提供開始日
納品の期限、期間、作業の開始と終了の目安
「できるだけ早く」では基準にならない。日付か、発注から何日以内かで書く。
支払条件
支払期日、支払方法、前払・分割の有無、振込手数料の負担
請求書との関係は請求書のページ、遅れたときの扱いは支払期日のページで扱う。
前提条件
見積の金額が成り立つ条件(数量、仕様、素材の提供、利用範囲など)
前提が崩れたときに、見積を見直す旨も書く。
除外事項
見積に含まない作業や費用
「含まれないこと」を書いておくと、追加の請求の根拠になる。
有効期限
見積の内容を維持する期間
日付で書く。期限の効果は有効期限のページで扱う。
内容の欄は、受け取った人が読んで、どこまで含まれているかを説明できる程度に書きます。社内の略称や、前回の取引だけで通じる言葉は、後で第三者に示したときに意味が通じません。
見積書の内訳をどこまで細かく示すかは、受注側にとって悩ましい点です。細かく書けば、発注側は金額の根拠を理解でき、変更が出たときの増減も計算しやすくなります。反対に、内訳を細かく示すと、原価の構成やノウハウが見えてしまうと考えて、「一式」でまとめる受注側もあります。どちらを選ぶにしても、発注側が「この見積に何が含まれ、何が含まれないか」を読み取れることが最低限の条件です。内訳を出さない場合は、含まれる作業の範囲を文章で説明し、範囲を超える作業の扱いを書いておきます。
複数の会社から見積書を集める相見積もりの場面では、見積書の条件をそろえることも大切です。発注側が示した仕様の版(仕様書の名前と日付)を見積書に引用しておくと、どの仕様を前提にした金額かが分かり、他社の見積書と比べる際にも、前提の違いが見えます。受注側にとっては、相見積もりで採用されなかったときに、見積書に含まれる企画や提案の内容を無断で使われないよう、見積書や提案書の利用範囲(検討のためだけに使い、採用しない場合は破棄する、など)を一言添えておくことも考えられます。
前提条件と除外事項:書き方で負担が逆転する
見積書の中で、もっとも争いになりやすいのが前提条件と除外事項です。多くの契約書で見られる傾向として、見積書の位置づけを定める条項には、大きく二つの考え方があります。ひとつは、「見積書に明示されていない費用は、受注者の負担とする」という書き方です。もうひとつは、「見積書にない作業は、別途見積と承諾を経て有償で行う」という書き方です。同じ「見積書に書かれていないこと」を扱っているのに、負担する者が正反対になります。
前者の書き方は、発注側にとっては予算の見通しが立つ利点がありますが、受注側にとっては、見積の段階で予想できなかった費用まで負担させられるおそれがあります。後者の書き方は、受注側の追加作業の対価が守られますが、「どこまでが見積に含まれる作業か」の線引きが曖昧だと、追加の請求をめぐる対立になります。どちらの考え方を採るにしても、見積書側で、含まれる作業と含まれない作業をはっきり分けておくことが前提になります。
書き方の例(一般的な例) 前提条件・除外事項の書き方
前提条件
理由「通常の仕様」は人によって違う。前提を数字と期日で示すと、前提が崩れたかどうかを客観的に確かめられる。
除外事項
理由含まれないものを明記すると、追加の請求が「見積外の作業の対価」として位置づけられる。承諾の手続を一緒に書くと、事後の請求に対する争いを防ぎやすい。
見積外の作業
理由一方的に受注側に寄せた書き方は、予想できない費用まで負担させる。事前承認の手続を設けると、双方に見通しが立つ。
なお、承諾を得る前に行った作業の対価を請求できないとする書き方は、受注側の追加作業を実質的に無償にしてしまうことがあります。発注側の指示で追加の作業が必要になったのに、承諾の手続が間に合わないまま作業が進む、という場面は実際の取引でよく起きます。この場合に、事後に承諾を得る例外を置いておくかどうかで、受注側の負担が大きく変わります。追加の作業や変更の承諾の流れは、概算・一式見積と最終の請求額のページで掘り下げます。
前提条件が崩れたときの手続は、「誰が気づき、誰に、いつまでに、どの方法で知らせるか」を決めておくと機能します。受注側が気づいたときは、作業に入る前に連絡して見積の変更を提案する、発注側が仕様を変えたいときは、変更の内容を書面(メールを含む)で示して見積の再提示を求める、というのが基本の流れです。連絡の方法を指定しておくと、「電話で伝えた」「聞いていない」という争いも減ります。連絡の期限は、「気づいた後、直ちに」「作業の着手前に」といった形で書きます。
条文例見積書の前提条件を契約内容に取り込む条文例
- 見積書に記載された前提条件が変更されたとき、又は見積書に記載のない作業が必要になったときは、受注者は、直ちに発注者にその内容と費用の見込みを通知し、発注者の承諾を得て、見積を変更する。
- 前項の承諾を得る前に、受注者が発注者の指示により前項の作業に着手した場合の対価は、発注者が当該指示を行ったことを受注者が示したときは、前項の見積の変更を待たずに、発注者が支払う。
一般的な書き方の例です。取引の性質(請負か準委任か)や、発注者の承認の体制に合わせて、承諾の方法(書面、メール等)と通知の期限を整えます。
「一式」「概算」「目安」「上限」の表記と、最終の請求額
見積書で金額の根拠を細かく書く余裕がないとき、「一式」とまとめたり、「概算」「目安」と添えたりすることがあります。こうした表記は、受け取った側にとっては、金額が確定した額なのか、動き得る額なのかを左右します。主な表記を整理します。
見積書の金額の表記と、受け取る側の読み方
| 表記 | 一般的な意味合い | 書いておきたいこと |
|---|---|---|
| 一式 | 複数の作業を一括りにした金額。内訳を示さない | 含まれる作業の範囲。範囲の外の作業は別料金かどうか |
| 概算 | 現時点の見込みの金額。最終の額は変わり得る | 変わり得る条件、変わる場合の事前の連絡、変動の幅 |
| 目安 | 参考の金額で、確定したものではない | 契約の金額として扱うのか、改めて確定させるのか |
| 上限(〜円まで) | 最終の請求額は、この額を超えない | 実費精算か、定額の上限か。実費が下回ったときの精算 |
| 〜円から | 最低でもこの金額から始まる | 追加される項目と、その金額の決め方 |
これらの表記が、最終の請求額とどう関わるかは、「定額で請け負う」のか、「実費を精算する」のか、「時間単価で積み上げる」のかという、見積の型によって変わります。型の違いと、最終の請求額が見積を超えたとき、あるいは下回ったときの扱いは、概算・一式見積のページで詳しく説明します。このページでは、見積書の記載の段階で、「概算」「目安」と書いたときは、その意味を同じ書類の中で説明しておくこと、までを押さえておけば十分です。
税込・税別を明記する
金額の食い違いのうち、記載だけで防げるのが、税込か税別かの食い違いです。見積書に「100,000円」とだけ書いてあれば、受け取った側は税込の総額と読み、出した側は税別の本体価格のつもりだった、ということが起きます。一般に、契約書や規約では、「税込金額とし、税額を含む」とする書き方、「税別とし、別途税額を加算する」とする書き方、そもそも書いていない書き方が混在しており、書いていないものが争いの種になります。なお、消費者向けに価格を示すときは、消費税を含む総額を表示します(消費税法63条。免税事業者を除く)。税抜価格を併記する場合も、総額が明瞭に分かるようにします。
書き方の例(一般的な例) 金額の税込・税別の書き方
合計金額
理由税込・税別の別を金額の横に書く。内訳を併記すると、請求書との突合が容易になる。
見積書全体の注記
理由個別の欄ごとに書き漏らしても、見積書全体の原則で補える。ただし、個別の欄の記載と矛盾しないようにする。
ここで説明しているのは、金額の表示の仕方だけです。どの取引にどの税額がかかるのか、端数の計算をどう扱うのか、請求書にどの事項を書かなければならないのかといった、税の取扱いそのものは、このサイトでは説明しません。
見積書の位置づけ:契約の一部として扱う書き方と、扱わない書き方
見積書の内容が、承諾されたあとの契約の中でどういう位置にあるかも、書いておきたい点です。多くの契約書で見られる傾向として、「見積書及び発注書は、本契約の一部を構成する」とする書き方がよくあります。この書き方を採ると、見積書の項目や前提条件は、契約書本文と同じ効力を持つことになります。見積書の記載が契約の内容になるのですから、見積書を出す側も受け取る側も、見積書を契約書の一部として読み直す必要があります。
見積書を契約の一部とする場合に、確認しておきたい点は三つあります。第一に、見積書と契約書本文が食い違ったときの優先関係です(書類の食い違いのページで扱います)。第二に、見積書が改訂されたとき、どの版が契約の対象になるかです。第三に、見積書の備考欄や裏面に書かれた条件(支払、責任の範囲など)を契約の内容に取り込むのかどうかです。
見積書を受け取る側も、見積書を「金額の確認」だけで読まず、前提条件、除外事項、有効期限の欄を順に読む習慣が役立ちます。特に、除外事項に書かれた作業が、自分の側で必要になる作業かどうかを、発注の前に確かめます。含まれていると思っていた作業が除外されている場合は、発注前に見積の変更を求めるのが、いちばん低い負担で解決できる時点です。発注後に気づくと、追加の費用か、品質の低下か、納期の遅れのいずれかに形を変えて現れます。
確認の問いと理由見積書の位置づけを決めるときの確認の問い
見積書は契約の一部か、契約の前段階の書類か。
契約の一部とするなら、記載の一語一語が契約内容になる。前段階の書類とするなら、契約書や発注書で改めて条件を確定させる必要がある。
見積書の改訂版が出たとき、どの版が対象かを決めているか。
旧版と新版の両方が残っていると、金額や範囲の主張が食い違う。版番号と日付で特定する。
見積書の備考欄の特約を、契約の内容にしてよいか。
備考欄の記載は読み飛ばされやすい。重要な条件は、本文の目立つ位置に移すか、承諾の際に確認する。
見積の作成そのものに費用がかかる場合は、あらかじめ伝えているか。
見積の作成に費用がかかる取引では、事前に有償である旨と金額を示さないと、請求の根拠が弱い。
記載ミスが見つかったとき、版の管理、控えの保存
見積書は、人が作る書類ですから、桁の間違い、単価の取り違え、項目の抜けといったミスが起きます。発注者が承諾した後に、受注側がミスに気づいた場合、金額の訂正を求められるでしょうか。これは、民法の錯誤の問題として整理されます。
民法95条1項は、意思表示が、①意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示の誤り)、または、②表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)に基づくもので、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができるとします。ただし、②の動機の錯誤による取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限られます(同条2項)。また、錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合は、相手方が錯誤を知り、又は重大な過失によって知らなかったときなどを除いて、取り消すことができません(同条3項)。
見積書の桁違いのような単純な書き誤りは、①の表示の誤りにあたり得ます。しかし、取消しが認められるかは、錯誤の重要性や重大な過失の有無、相手方が誤りに気づける状態だったかによります。実務で大切なのは、取消しの要件を議論することよりも、ミスを見つけたら速やかに相手に伝え、訂正版を出し、承諾の手順を取り直すことです。発注後の訂正が、書類の食い違いとして残らないようにします。
見積書の控えと版の管理
- 見積番号に枝番や版番号を付け、改訂のたびに日付と変更点を残している。
- 旧版は破棄せず、「旧版」の表示を付けて保存している(承諾された版を後から特定するため)。
- メールで送ったPDFと、控えの内容が一致していることを確認している。
- 口頭で金額や範囲を変更したときも、変更後の見積書またはメールを残している。
- 発注書に見積番号が書かれており、見積書と発注書を対応させられる。
起きがちなこと
見積書で起きがちなこと
- 「一式」で済ませ、含まれる作業の範囲を書かなかったため、仕様の追加が見積内か見積外かで食い違う。
- 前提条件を口頭で伝えただけで、見積書には書かず、前提が崩れたときに金額の見直しを求められない。
- 除外事項を書かなかったため、必要になった費用を受注側が負担する形になる。
- 税込・税別を書かずに出し、請求の段階で金額が食い違う。
- 改訂した見積書の旧版が残り、どちらを承諾したのかが分からなくなる。
- 見積書の誤記に承諾後に気づき、訂正を求めたが、承諾の手順を取り直さなかったため、金額の根拠が二つ残る。
以上を踏まえて、見積書の有効期限や撤回の問題は次のページに進みます。見積書を承諾する側の書類である発注書の書き方とあわせて読むと、見積書の記載が契約の内容にどうつながるかが見えます。
よくあるご質問
見積書に押印は必要ですか?
法律上、見積書に押印を要求する一般的な規定はありません。押印がなくても、見積書の内容を示す書類として有効に使えます。ただし、書類を後で証拠にするとき、署名または押印があると、本人が作成したものと推定される場合があります(民事訴訟法228条4項)。取引の慣行や相手の求めに応じて運用を決めます。
見積書に「一式」と書いてよいのは、どんな場合ですか?
含まれる作業の範囲を、別の欄や注記で説明できるなら、「一式」は使えます。範囲が説明できないまま「一式」とすると、追加の作業が見積内か外かで食い違います。「一式」にした項目は、含まれる作業と含まれない作業を、見積書の中で書き分けておくのが安全です。
見積書の金額を、税込と税別のどちらで書くべきですか?
事業者向けの見積書であれば、どちらでも構いません。大切なのは、どちらなのかを金額の横か、見積書全体の注記に明記することです。消費者向けに価格を示すときは、消費税を含む総額を表示します(消費税法63条。免税事業者を除く)。税抜価格を併記する場合も総額が明瞭に分かるようにします。このサイトは税の取扱いは扱いませんので、金額の食い違いを防ぐ記載の話にとどめています。
見積書の作成に費用を請求できますか?
見積の作成が無償であることが通例の業種では、有償にするなら、見積の依頼を受ける前に、有償である旨と金額を伝えておく必要があります。何も伝えずに事後に請求すると、合意がなかったとして争われます。有償の見積にする場合は、見積の費用を、本契約を結んだ場合に代金に充当するのかも決めておきます。
承諾された後で、見積書の金額の間違いに気づきました。訂正を求められますか?
桁違いなどの単純な誤りは、民法95条の錯誤として取消しが問題になり得ますが、重大な過失があるときは原則として取り消せません。取消しの可否を議論する前に、速やかに相手に伝え、訂正した見積書を出して承諾を取り直す対応を取るのが現実的です。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、取引の内容ややり取りの経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の取引や事業者を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 公正取引委員会 / 中小企業庁